池井戸潤の小説『鉄の骨』を読んだ感想です。実は、2010年にNHKで映像化されてはいますが、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『花咲舞が黙ってない』で人気が高まっているこの時期、再度映像化になってもおかしくない、優れたエンタテイメント作品です。
鉄の骨 小説 あらすじ
中堅のゼネコン会社に入社し、土木の現場にも慣れ、これからという時に部署異動を命じられた富島 平太の目線で語られる、組織談合をテーマにした作品です。
富島 平太は、ゼネコン会社に入社して4年目の若手、協力会社の不真面目な対応にもガツンと言える、仕事に燃える熱い男です。
そんな彼が急に、現場からはずされて、業務課、通称談合課に異動になるところから、物語は急降下のスピードで進み始めます。
建設業界にとって、必要悪である談合の担当者となり、苦悩の日々がはじまるが、そんな個人の思いとは関係なく、2000億円規模の公共事業の入札が始まるのです。そんな中、地検の特捜部にも談合情報がリークされ、捜査が水面下で行われていくのです。
さて、ゼネコン企業の行方は、そして、巻き込まれてしまった富島 平太の運命は?
鉄の骨 小説 感想
池井戸潤さんの小説は、今まで『下町ロケット』『空飛ぶタイヤ』を堪能させていただきましたが、『鉄の骨』は、決定権を持っていない、いわゆる普通のサラリーマンが主人公というところが面白いです。
サラリーマンの多くの方が共感するシーンがたくさん登場します。組織の一員としてやらねばならない、サラリーマンとしての悲哀もありますし、組織人としての思いも富島 平太を通して、熱いものが伝わってくる小説です。
談合イコール悪という、我々一般人が抱いているイメージをわかりやすく、必要悪に持ってくる部分が非常に説得力があります。
毎回池井戸潤さんの小説を読み終わると、経済に強くなった気分にさせてくれるのが心地良いです。
今回は建設業界です。フィクション小説ですが、政治家との癒着や公共入札の問題点など、ほんと考えさせられる経済小説です。
ただ、談合だけをテーマにしてしまえば、淡々と進むところを富島 平太の恋人も登場させ、少しだけ恋愛小説の要素も取り入れている部分が、おもわず深いと感じてしまいます。
ネタバレになるので、核心は書きませんが、建設業界、男が中心になりがちの小説ですが、2人の女性の言動が、心に響きます。そこには、談合という経済小説を超えた、人としての価値観の大切さを改めて実感させてくれます。
鉄の骨 小説 お勧めポイント
第142回直木賞候補作品であり、第31回吉川英治文学新人賞受賞作品です。
ジャンルが難しい分類になる、『鉄の骨』、そのタイトルから中味のイメージが難しいですし、固いイメージがありますが、非常に読みやすい小説です。
富島 平太という若手社員の目を通して、談合や建設業界の実態、入札の仕組みを語りながら進んでいく展開は、見事としかいいようのない書き手のテクニックです。
また映像化が待ち遠しいですが、小説を読んでいない方で、建設業界に興味がある方には、お勧めの一冊です。
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